渡辺 真里子
薬膳講師育成トレーナーはじめに
私は、
「学び」を“誰かに示すための道具”ではなく、
自分の内側を育て、日々の選択や生き方に落とし込んでいくものとして扱う人と、
学びや問いを分かち合いながら一緒に仕事をしてきました。
薬膳や中医学は、
知識を増やすためのものでも、
肩書きをつくるためのものでもありません。
日々の暮らしや言葉、在り方の中に
静かに息づいていく学びだと、私は考えています。
だから私は、
正解を渡したり、代わりに決めたり、
「ここまで来れば大丈夫」と保証することはしません。
その代わり、
「自分の言葉で考え続ける姿勢」が育つことを大切にしています。
自分で考え、自分の言葉で立つプロセスには、
時間も手間も惜しまず伴走します。
そして、
私が関わるのは、
誰かの代わりに前に立ってほしい人ではなく、
自分の足で舞台に立つ覚悟のある人です。
私の原点
私はもともと、
人前で何かを教える仕事から始めたわけではありません。
会社員時代、座談会の司会や聞き役として、
多くの人の話を聴く仕事に長く関わってきました。
そこで求められていたのは、
正解を示すことでも、評価を下すことでもなく、
その人自身の言葉が、自然に出てくる場をつくることでした。
そして、そうした場のあり方を、
これから先も大切に育てていきたいと思うようになりました。
人は、
「何を言うか」よりも先に、
「どんな状態で話しているか」が整わないと、
本当の意味で前に進めません。
そのことを、私は現場で何度も見てきました。
この経験は、
後に薬膳や中医学を学び、教える立場になった今も、
私の仕事の根っこにあります。
薬膳・中医学との出会い
薬膳や中医学と出会ったきっかけは、
私自身の体調不良でした。
冷えだけでなく、
めまいや動悸、舌のしびれ、突然の嘔吐など、
自分の体に何が起きているのか、
まったくわからない状態が続いていました。
いくつかの病院で検査も受けましたが、
はっきりとした原因は見つからず、
「異常はありません」と言われるほど、
逆に不安が大きくなっていったのを覚えています。
そんなとき、
たまたま目に入った漢方薬局に、
本当に軽い気持ちで入ったことが、
中医学との最初の出会いでした。
そこで説明されたのは、
中医学的には
ストレスによって消化機能を損なっている
(肝の働きが昂り、脾を弱めている
「肝脾不和」の状態)という見立てでした。
正直に言うと、
処方された薬そのもので体調が劇的に改善したわけではありません。
けれど、
「今の自分の状態が、構造として説明されたこと」
そのこと自体に、強い衝撃を受けました。
「わからない」「信じられない」と感じていた自分の体に、
初めて、納得できる言葉が与えられた感覚でした。
ここから、
もっとこの考え方を知りたい、
自分の体を、自分で理解できるようになりたい、
そう思い、
その漢方薬局が運営していたスクールで
薬膳・中医学を学び始めました。
私にとって薬膳や中医学は、
不調を整えるための知識である以前に、
自分自身を信じ直すための言語だったのだと思います。
学ぶ側から教える側へ
学びを深めていくうちに、
次第に「教える」という立場に立つようになりました。
けれど私にとって教えることは、
知識を整理して伝えること以上に、
その人が自分の感覚や考えを信じ、
自分の言葉で語れるようになる過程に立ち会うことでした。
そしていつか、
そうした姿勢を自然に受け継いでいく人と出会えたら、
と感じるようになりました。
それは、私自身が、
自分の体の不調を前に「何が起きているのかわからない」状態を経験し、
中医学という視点によって
初めて自分を理解し直すことができたからです。
正解を教えられることよりも、
「自分の状態を、自分の言葉で捉えられるようになること」
その力こそが、
学びを日常や仕事につなげていくために欠かせないと考えています。
教える人を育てること
講師育成においても、
私が一貫して大切にしているのは、
「その人自身が、自分の足で立ち、
自分なりの言葉や姿勢を育てていくこと」です。
かつての私は、
自分の体に何が起きているのかわからず、
判断や答えを外に求めていた時期がありました。
だからこそ、
学びや仕事が「誰かに委ねるもの」になってしまう危うさも、
身をもって知っています。
そのため、
私の講座や個別の関わりは、
答えや完成形を保証するものではありません。
自分で考え、選び、進んでいく。
その前提を共有できる方とだけ、
長く、深く関わっていきたいと考えています。今の仕事のかたち
現在は、
薬膳・中医学を学んできた方が、
その知識を「自分の言葉」として整理し、
人に伝えていくための教育・講座づくりを中心に活動しています。
私が提供しているのは、
知識やノウハウをそのまま使うための型ではなく、
学びを通して
「自分は何を大切にしたいのか」
「どんなふうに伝えたいのか」
を見つめ直すための場です。
薬膳・中医学は、
人を評価したり、正解を示したりするためのものではなく、
自分や目の前の人を理解するための視点だと、私は考えています。
その視点を手にした人が、
自分の足で立ち、
自分の言葉で伝えていく。
そんな学びと実践の循環を育てることが、
私の仕事です。一緒に学びを育てられる人と出会えたら
私は、
「上手に教えられる人」を増やしたいわけではありません。
それよりも、
と、ゆくゆく出会えたらいいなと思っています。
そしていつか、
日本の薬膳や中医学のこれからについて、
同じ目線で語り合える人と
自然につながれたら嬉しいです。
これは「スタッフ募集」でも
「弟子募集」でもありません。
ただ、この教室について
私が主宰している「つばめ薬膳アカデミー」については、
教室の考え方や大切にしていることを、
別ページにまとめています。
学びの場として、どのような姿勢を大切にしているのか。
興味のある方は、こちらからご覧ください。
これまでの歩みについて
これまでの活動の中で、
薬膳・中医学関連書籍の執筆・編集協力や、
業界団体での広報・編集活動にも携わってきました。
教えること、伝えることを通して、
薬膳を学んだ人がその先に進む道をどうつくれるか。
その問いを持ちながら、現場に立ち続けてきた時間でもあります。
当時の考え方や活動の背景については、
インタビュー記事としてまとめていただいたものがあります。
今の私の仕事観はそこからさらに変化していますが、
ここまで歩いてきた軌跡として、こちらに残しています。
これまでの活動・経歴
補足として
余談ですが、旅先では必ず神社に立ち寄ります。
手ぬぐいを集めるのも、長年の楽しみのひとつです。
私が好きな生薬のひとつに「黄耆(おうぎ)」があります。
身体を動かすエネルギーである「気」を補い、
バリア機能や呼吸の力を支えてくれる生薬です。
名前や効能だけ聞くと強そうに感じるかもしれませんが、
実際はとてもおだやかな味で、
スープやお茶にすると、土っぽいけれどほっとするようなおいしさがあります。
中国などでは食材として使われることも多いのですが、
日本では医薬品として扱われており、
日常の食卓に上る機会は多くありません。
それでも、
これに代わる生薬はなかなか思いつかず、
「こんなふうに使えたらいいのに」と感じながら、
大切に向き合っている生薬です。